裏のまた裏話

谷元選手のトレードに見る日本ハムの戦略

どもども。

昨日から今日にかけて野球界はニュースが多かったですね!

 

幾つか挙げていけば高校野球では西東京大会で東海大菅生が優勝。注目の清宮選手擁する早稲田実業を破りました。

やはり注目の清宮選手を甲子園で見たい気持ちもありましたが、その清宮選手や野村選手擁する強力打線を抑えて勝利した東海大菅生の甲子園での戦いにも注目したいですね。

 

続いて昨日は巨人が劇的なサヨナラ勝ち。打線はDeNA先発飯塚投手の前にランナーは出すものの得点できず、坂本選手の途中交代などもあって苦しい展開に。

それでも3点ビハインドの8回に石川選手と陽選手のホームランで1点差とすると、9回は二死走者なしから村田選手と亀井選手の連打でチャンスを作り、最後は途中出場の相川捕手が逆転サヨナラタイムリー。

この試合を見ていると語りたいことがたくさん出てくるのですが、逆に多すぎてまとめられないのでまた今度ということで…。

 

そして今日は7月31日。今シーズン中の選手の移籍は今日までとなります。

育成選手の昇格も今日が締め切りとなった中、支配下の枠を1つだけ残していた巨人は捕手の田中貴也選手の昇格が決まりました

昨日のブログで高木京介支配下登録しないでくれという強い思いを綴ったのですが、高木京介じゃなくて本当に良かった。

そのことを抜きにしても田中貴也選手は楽しみ。正捕手の小林選手がWBCに出場してチームを離れていたこともありオープン戦でも出番を与えられていましたが、そこでも持ち前の守備力を発揮し、主力であるマイコラス投手からも高評価を受けたという田中貴也選手。

二軍ではあまり長打が出ておらず、小林選手同様に打撃が課題ということにはなりそうですが、既に一軍レベルの守備力を身に付けているのは大きなアピールポイント。2年目の宇佐見選手と共に、小林選手と戦えるような捕手になってほしいと思います。

 

トレードの期限も今日までですが、意外なトレードがありました。

今シーズン2度のトレードを行っている日本ハムが、再びトレードを敢行。なんと、今年のオールスターにも出場した谷元選手を金銭トレードで中日に放出しました。

今回はこのトレードについて、自分が得た情報を整理するためという形になりますが書いてみようかと思います。

 

主力リリーバーを放出。日本ハムの意図は?

谷元選手は1985年1月28日生まれの32歳。

三重の稲生高校から中部大学を経てバイタルネットに入社。入社2年目の2008年のドラフト会議で日本ハムから7位指名され入団しました。

167cmと小柄ながら、キレのある直球を武器とする右投手で、入団からの9年で351試合に登板。

昨年の日本シリーズでは第6戦の9回裏に登板し胴上げ投手にもなっています。あれから9ヶ月しか経っておらず、衝撃的な今回のトレードとなりました。

 

これまでの慣例と合わせて考えるとあまりに異例と言える今回のトレード。谷元選手の放出を決断した日本ハムの意図はどのようなものだったのでしょうか。

 

チームの低迷で「売り手」へ

昨年は日本一に輝いた日本ハムですが、今季は7月30日終了時点で92試合を消化し33勝59敗で5位と低迷。3位の西武とは20.5ゲームもの差が開き、クライマックスシリーズ(CS)進出も絶望的な状況です。

 

そのチームの中で谷元選手は主力として活躍していましたが、推定年俸は1億円とされています。

年俸は選手の活躍への期待を表すものです。そして、その活躍によりチームが勝利するために支払われます。谷元選手個人に1億円分以上の勝ちがあることは確か。しかし、低迷している現在のチーム状況は球団が投資した分に見合っていないと言えます。そこで来季以降へ向けた投資のために谷元選手を放出したとも考えられます。

 

メジャーリーグではトレード期限が迫ってくると低迷しているチームが「売り手」となり、高額な年俸の主力選手を「買い手」である上位チームに放出することが多々あります。

トレードが活発でない日本ではあまり馴染みのないことですが、今回は日本ハムがメジャー流に動いたと言えるでしょう。

 

今年獲得したFA権の影響

既にインターネット上で多く話題となっていますが、このトレードには谷元選手が持つFA権が影響していると考えられます。

 

谷元選手は今年の6月21日に国内FA権を取得。今シーズンの低迷を考えれば、日本ハムは選手の年俸を低く抑えたいところでしょうが、FA権を持っている谷元選手の年俸を低く抑えるとFA権を行使され、移籍されてしまうということも考えられます。

移籍した場合、谷元選手は年俸Bランクの選手とされているため、移籍先の球団から日本ハムが「年俸の60%の金銭」または「年俸の40%の金銭+人的補償」という補償を受けることになります。

 

谷元選手の推定年俸は1億円のため、FA移籍で日本ハムが得られる金銭の最大額は6000万円。

今回のトレードで中日が支払った額は明らかにされていませんが、「今シーズンの残り期間で谷元選手に支払う年俸+中日から受け取った金銭」が6000万円より高いならば、FA移籍されるより今回のトレードの方が金銭的に日本ハムの得と言えます。

 

もちろん、谷元選手がFA移籍するとも限りません。谷元選手はアマチュア時代有名であったとは言い切れず、入団テストを経てドラフト7位で入団。日本ハムへの恩を強く感じている選手でしょう。

しかし、それに甘えて日本ハムが谷元選手の年俸を低くすることは難しい。1億円から下げることはあまり現実的ではないですし、仮に低く抑えようとしても年俸調停をされればその思惑は失敗してしまいます。

 

谷元選手の放出が痛くないということはないでしょうが、既に来季以降をにら日本ハムにとって最大限の利益を考えた結果が今回のトレードと言えるでしょう。

 

谷元選手放出で日本ハムが金銭以外に得るもの

上でメジャーリーグの話も出しましたが、主力選手を放出した「売り手」のチームが見返りに「買い手」のチームから受け取るのはプロスペクト、将来有望な若手選手が一般的です。

 

「買い手」の側から考えれば、「未来」の戦力を犠牲にして「現在」の戦力を得ているということになります。メジャーの各球団にとってはそれだけ「現在」のワールドシリーズに価値があるということなのでしょう。

 

日本ではプロスペクトの放出は一般的ではありません。その年の一番になるということの価値の違いもあるのかもしれませんが、毎年1200人ほどが指名されるメジャーのドラフトと違い日本で指名されるのは年に120人ほど。そもそもプロスペクトの層が全然違っているのです。それだけに、日本では主力選手を獲得できるとしてもプロスペクトの放出がそれに見合うとは限りません。

 

また、メジャーはドラフトで多くの若手選手を獲得するだけあり、下部組織の多さも日本とは比べものになりません。

マイナーリーグにはルーキー、アドバンズド・ルーキー、ショートシーズンA、クラスA、アドバンズドA、ダブルA、トリプルAと7つもの階層があります。

日本では多くても三軍まで。メジャーリーグを一軍とするならば、あちらでは八軍まであるわけですからその違いがわかります。

 

それだけに日本では本当に有望な選手は下部組織では収まらず、若くして一軍で活躍します。25歳以下で主力選手になった巨人の坂本選手やDeNA筒香選手、ヤクルト山田選手などはいい例ですね。

だからトッププロスペクト≒主力選手となるような日本では主力選手とプロスペクトのトレードはなかなか実現しない。

今回のトレードでも日本ハムがプロスペクトを求めていた可能性はありますが、なかなか折り合いが合わずに谷元選手の放出を優先して期限ギリギリでの金銭トレードとなったのかもしれません。

 

しかし、日本ハムが谷元選手の放出でプロスペクトを得られなかったとは限りません。日本ハムは今回のトレードで金銭を得た他、谷元選手がいた一軍の枠が1つ空きました。

谷元選手を二軍に落として一軍で若手を使うというのは現実的ではありませんが、いなくなってしまった以上二軍から選手を上げる枠が空きます。一軍レベルの打者と対戦することは若手にとって貴重な経験となるでしょうし、その機会を得られることは来季以降まで考えると大きなプラスと言えます。

谷元選手は現在32歳で、平均球速がこれまでより落ちているという話もあります。巨人の山口鉄也選手などもそうですが、リリーフというポジションは消耗が激しく、年齢も含めて考えると来季以降も谷元選手がこれまで通りの成績を残せるとは言い切れない。それでいて、リリーフ右腕は他のポジションよりは比較的育てやすい。まだ今シーズンは終わっていないとはいえ、CS進出を目指すより来季以降のチーム作りへ舵を切った日本ハムの姿勢を表すトレードとも見れるでしょう。

ファンの愛着も強い主力選手の放出はドライとも言えますが、長期的視野でのチーム作りは日本球界に新たな風を吹き込み得るのではという期待もあります。

 

「買い手」が中日になった理由とは?

 さて、谷元選手はこれから中日の選手となり、新天地での活躍を目指すことになります。

その中日は現在セ・リーグ5位。3位のDeNAとは8.5ゲーム差あります。日本ハムよりはCS進出の望みもありますが、それでも厳しい戦いには違いない。中日のフロントが日本ハムと同じ思考でチーム作りを考えていれば、今回のトレードには応じなかったのではという気もします。

 

では何故中日が今回のトレード相手になったのか。

他の球団と比較して考えると、まず日本ハムから見てパ・リーグの球団相手にトレードすることはあり得ません。谷元選手は現在進行形の主力選手で、衰える可能性があるにしても、来季以降の活躍も十分考えられる選手。

来季以降のチーム作りを考えるにしても、来季以降の主な対戦相手である同一リーグの球団の戦力を強化していたのでは意味がありません。

 

よって谷元選手を放出するならセ・リーグの球団相手しかあり得ませんが、そのセ・リーグなら中日より上位の球団の方が谷元選手を欲していそうに感じます。

首位の広島は資金にシビアな面もありますし、現在2位と10ゲーム差という状況を考えてもトレードに応じることはなさそうですが、激しい2位争いを繰り広げる阪神DeNAや、4ゲーム差で3位を追う巨人の方が上位を狙う「買い手」としてはしっくりきます。

 

巨人ファンとしては昨年オフの大田泰示選手が移籍したトレードなど、日本ハムとのトレードが多いイメージなだけにそういう意味でも中日なのかという意外性があります。

そこで日本ハムが北海道に移転した2004年以降、各球団が日本ハムとどれほどトレードしたかまとめてみます。

巨人:10回

横浜(現DeNA):6回

阪神、ヤクルト、中日:3回

オリックス、ロッテ:2回

ソフトバンク、西武、楽天、広島:0回

 

やはり巨人が多い。

かつて日本ハムGMをしていた髙田繁氏がGMをしている縁もあってかDeNAも多いです(6回中4回がDeNAになって以降のトレード)。

 

ヤクルトと中日に関しては今シーズンのトレードも含めてこの回数です。自前で主力を育て金銭的にシビアという点が合致するためトレードの条件が整いにくそうな広島とは0回ですが、それを除けばセ・リーグでは少ない部類の2球団とトレードをしたことになります。

 

そこに注目してみると、今回「中日(また、先日のヤクルト)とトレードをする」ということ自体が日本ハムの来季以降をにらんだ戦略とも考えられます。

つまり、来季以降もトレードを行っていくために取引先を開拓したということです。

そのために選手を得られずに金銭のみの獲得になるとしても、「中日に谷元選手を売った」という事実を求めていたとしても不思議はありません。

 

そうすると先ほど挙げたうち巨人とDeNAは今回の谷元選手を放出する相手として候補から外れます。

阪神なら取引先を開拓する意味でも良さそうだし、順位争い的にもより大きな恩を売れそうではありますが、阪神のリリーフはマテオ、桑原、高橋、ドリスなどタレントが豊富。今年日本ハムが放出した選手はエスコバー、屋宜、谷元と中継ぎがメインですから、利害が一致しなかったということでしょう。

 

日本ハム側から見れば上記のような事情が考えられますし、中日側から見てもまだCSを諦めておらず、先発投手が中継ぎ登板も行うなどブルペンにやりくりに苦心。三重県出身でもある谷元選手を獲得できるのは見事に利害が一致したと言えます。

 

 

球界に衝撃が走った今回のトレード。かつて糸井選手を放出したように、日本ハムは時折野球ファンにこのようなサプライズをもたらします。

全てのファンがそれを好意的に受け入れるわけではないでしょうが、新たなチーム作りの形として見るべき点があるのも事実。これからも注目してみたいなと思います。

 

それでは、今回はこのへんで。

また!