裏のまた裏話

重信の走塁ミスから考える巨人の課題

どもども。

今回は文章のスタイルを変えてみようかと…。

 

今回話すのは2年目の外野手・重信慎之介の話。先週金曜からの3連戦は、重信の存在抜きに語ることはできないだろう。

同じく2年目の捕手・宇佐見が上がるという情報もあり、代わりに重信を抹消するかと思ったが抹消されたのは大竹寛のみ。まあミスがあったから重信を落としたのではミスを引きずりかねないし、これで良いのかもしれない。

 

それでは今回は重信のミスとそれが起こった背景を考えていく。

 

 

3連戦初戦 問題のプレーまで

8月4日の初戦。点の奪い合いとなった試合は4-4で迎えた8回表、巨人3番手のマシソンが先頭打者の福田に本塁打を打たれ勝ち越される。

そのまま1点ビハインドで迎えた9回裏、中日のマウンドには抑えの田島が上がる。しかし、この田島は巨人の本拠地・東京ドームを苦手としていた。

その東京ドームへの苦手意識を払拭したい田島は先頭の代打・亀井を空振り三振に仕留める。

あとアウト2つとしたところでバッターはこれまた代打の橋本到

ここから陽、マギー、坂本と続いていく中でランナーを出したくない田島だったが、結果はまさかのソロホームラン。橋本到の今季1号で試合は振り出しに。

 

延長10回の表、中日は先頭のゲレーロがヒットで出塁すると代走でベテランの工藤が登場。

工藤は初球、カミネロと相川のバッテリーから盗塁を決めると続くビシエドのヒットで三塁へ。

巨人の守備陣は続く福田を坂本のファインプレーで併殺打に仕留めるも、工藤がホームインして勝ち越しを許す。

 

その裏、中日のマウンドには祖父江が上がる。

中日は主要な中継ぎを使いきっており、巨人からすると追いつけばまだまだチャンスがあった。

しかし祖父江は先頭の長野を三振に仕留めると、続く中井もファーストゴロに仕留めてツーアウト。

それでも続く途中出場の亀井がヒットを放ち、望みを繋ぐ。

続くバッターは途中出場の相川。ここで由伸監督は亀井に代走重信を送った。

 

「亀井に代走重信」の意味は?

僕はこの時、亀井に代走で重信を出す意味がよくわからなかった。

確かに亀井がホームに帰れなければ負けであり、俊足の重信を使いたかったのもわかる。

ただ、亀井は走塁センスのある選手。「打ったらゴー」の二死の状況であればそこまで大きな違いがあると考えにくかった。

それに、これから同点に追いついて延長12回までいくようなことがあれば亀井に回る可能性もある。ここで彼を下げてしまうのはデメリットが大きいように感じる。

まあ後から考えてみれば亀井の後の相川(出ればサヨナラのランナー)が続いたとしてもベンチに捕手がいないので代走は出せない。それも加味してみれば重信を出すのもアリかなとは思った。

 

でも重信は巨人の偉大な代走屋・鈴木尚広とは違う。中日戦といえば偉大なリリーバー・岩瀬が代走で出てくる鈴木をものすごく気にしていたのが印象深いのだけれども、鈴木には名前だけで相手を警戒させる「存在感」があった。

けれども現状の重信はまだ「足が速くて割と盗塁ができる」だけの代走だ。少なくとも中日バッテリーが重信を気にして自滅するような展開はないだろうなと思った。

由伸監督もそのことはわかっていたのだろう。重信の起用は「プレッシャーをかけるため」なんかではなかった。

 

なぜ重信を走らせたのか

相川の打席で重信は走った。祖父江の投球を受けた捕手の武山が二塁へ投げる。

重信が二塁へ滑り込むも、明らかなアウトだった。これでスリーアウト。5-6で巨人は試合に敗れた。

 

二死なのでヒット一本で得点できる状況にしておきたいのはわかる。それに、一塁が空けば中日バッテリーは相川を歩かせることも選択肢に入るし、より期待できる陽に回る可能性も上がる。でも、それは「ランナーを二塁に進められたら」の話である。

重信は盗塁成功率が悪いわけではないし、盗塁に全く期待できないわけではない。とはいえ失敗すればチームが負ける状況でベストなパフォーマンスを発揮できるだろうか?

中日バッテリーも代走で重信が出て来た時点で盗塁の可能性を考慮する。ただでさえランナーにプレッシャーがかかる中で相手にも警戒されているのだ。

鈴木尚広はそんな状況でも盗塁を決めてみせるからこそ鈴木尚広だったわけだけど、今の重信はまだそうじゃない。

 

しかしベンチが期待したのは、この場面で重信が鈴木になることだった。

あの盗塁は重信自身の判断だったという可能性もなくはないけど、僕はそうだと思えない。あの場面でスタートを切るのは100%の自信がなければできないはずだ。でも、タイミングは明らかにアウトだった。際どくもなんともない。100%の自信を持った男のタイミングではなかった。

いつスタートするかの決断を正しく下せるのも走塁のセンスだと思う。重信だってベンチからここぞの代走で期待されている(2年目のドラ2に期待することじゃないんだけど)選手なのだから、そこまで走塁センスがないわけではないはずだ。

重信の盗塁は間違いなくベンチからのサインだったと思う。

 

ではベンチはどうして盗塁のサインを出したのか。

思うにこれは、この試合の動くべき場面で動かずに追い込まれた由伸監督がアリバイ作りを図ったのではないだろうか。

 

この試合、7番レフトでスタメン出場したのは贔屓界の偉大な男・中井大介である。

中日はこの試合でサウスポーのバルデスが先発。左打ちのベテラン亀井をスタメンから外したのはわかる。

でもベンチには右打ちの若手外野手・石川がいた。中井を使った意味はわからない。

1つ擁護するなら、中井は今季バルデスとの相性が良いというところだろうか。ともかく、由伸監督は愛してやまない中井大介という野球選手のような何かをスタメン起用した。

 

この試合、中井は内野安打を1本放ったが、他は酷いものだった。

1点ビハインドの6回裏、中井は一死三塁のチャンスで打席に立つ。三塁ランナーが帰れば同点の状況である。

ここで中井は中日の2番手・伊藤の前に三振に倒れる。ゴロや外野フライならランナーが帰る可能性があった状況で、バットにも当てられず三振したのである。

 

ただ、中井がこうなること自体はわかりきっていた。中井がいい場面で打てるわけないのだから。

代打を出してもいい場面だったはずだ。しかし由伸監督は愛する中井にチャンスを与えたかったのか、代打が歩かされて小林勝負になることを嫌ったのか、そのまま中井を打席に送った。

後者ならまだ理解の余地はある。でも、前日に實松を抹消して小林に代打を出しにくくなっていたのだから、その前の7番に代打を出さなければ打てない中井を使うべきではなかった。由伸監督の中では中井が代打を使わずとも打てる選手なんだろうけど。

中日に勝ち越された直後の8回にも中井はファールフライというしょうもない結果に終わっている。しょうもない選手にはお似合いだ。

 

そして10回裏。前述の通り、中井はファーストゴロとこれまたしょうもない結果に終わっている。

この後で「追いつかなきゃ負けだから」と重信を代走に出すくらいなら、ベンチの残り選手などは気にせず打てるわけもない中井に代打を出すべきだった。それをしないから中井は全ての野球ファンの予想に応えて凡退し、巨人は追い込まれた。由伸監督は動くべき場面で動かないことで窮地に追いやられたのだ。

ちなみにこの中井、10回の時点ではセカンドを守っている。巨人のベンチで中井は「一塁、二塁、左翼を守れるユーテリティプレイヤー(笑)」らしいので由伸監督も下げにくかったのだろう。

ユーテリティプレイヤーならいざという時のためにベンチスタートの方が戦術的に効果があると思うのだが。

 

まあ、由伸監督は動かなかったので追い込まれた。だから亀井のヒットの後でアリバイ作りのために動いた。

「監督が動かずに負けた」よりは「果敢に動いたものの敗れた」の方がマシだと考えたのだろう。日本人は動くべきでない場面で動かない判断力よりも、意味が無くても常に動いている方が良いと思いがちなのだ。僕も日本人だけど。

 

結局動くべきタイミングを間違えたもんだから巨人は試合に敗れた。

この試合の敗因は色々あるだろうが、中井への愛を捨てられない上に重信へ勝手に鈴木の幻影を重ねた巨人ベンチの弱さがその1つなのは間違いない。

 

勝ち越しかかる3戦目 まさかのプレー

重信の盗塁失敗で幕を閉じた4日の試合だが、翌日は好調な打線がこの日も本塁打を連発し、エース菅野の好投もあって勝利。両チームは6日の試合で勝ち越しを狙うことになった。

 

そして6日の試合。この試合も巨人は疲労の溜まるマシソンが中日打線に打たれて失点。同点で迎えた8回に勝ち越され、1点ビハインドで9回裏の攻撃へ。

中日はマウンドに田島ではなく、NPB史上最多950試合目の登板となる岩瀬を送り込む。

巨人の先頭打者はマシソン。当然代打である。

そして出てきたのは前日からスタメンを外れていた(5日の試合でスタメンから外したのはびっくりしたしファインプレーだったね)中井大介。馬鹿じゃねえの。

 

お前そんなこと言うなら打率.230は打ってる中井より打率1割台の山本を使えということかよと思う人もいるかもしれない。それに答えるなら、僕は山本の方が良いと思う。

中井の方が打率は良いけど、どうせこいつが大事な場面で打たないことはわかり切っている。前述の重信の盗塁もそうだけど、大事な場面は精神的な負担がかかるし、実績のない若手選手や中井みたいな三流の中堅がその中で結果を出すのは難しいのだ。

当然山本を出したって打てない可能性の方が高いけど、それは将来的に山本が主力選手になるためのステップと受け止められる。打てなければそれで終わりの中井と違って、未来があるのだ。

由伸監督にはそのへんをわかってほしいと思う。中井はかつて期待されていた若手だったけど、寝坊だの怪我だので自分から出番を手放していった(原前監督の起用というのもあっただろうけど)。その結果十分な場数を踏めず、三流の中堅選手と化した。

今みたいに中井で山本とか石川の出番を食うような采配をしていたら、山本たちが三流の中堅になりかねない。

どちらも打つ確率が高くないなら、打てなかった時に得るものが大きい山本を使うべきだったと僕は思う。

 

一応言えば僕は由伸監督が嫌いなわけではなくむしろ選手時代の記憶もあって好きなので、他に中井を使った理由を探してみる。中井の方が下げやすいから、というのもあるかもしれない。

巨人は捕手2人制で、この試合ではもう小林が退いている。2番手の相川に何かあった時の捕手は内野手の寺内が務めることになるだろう。

そう考えると、むやみやたらに寺内を使えない。すると内野の控えとして山本が重要になる。

そして9回裏のこの場面、先頭打者が出塁すれば代走重信は決定的だ。山本が代打に出た場合、代走を送られて内野陣に不安を抱えながら采配しなければならなくなる。

それよりなら代走を出しやすい中井、と考えた部分もあるのかもしれない。ただ、代走を出されるには出塁しなきゃいけないわけで、やっぱり中井なんか出すべきじゃなかったと思うけど。

結局中井は岩瀬の前に空振り三振。出塁なんかできるわけもなかった。

 

しかし、続く陽とマギーの新戦力コンビは格が違う。陽が四球を選び、マギーがヒットで一塁二塁。

そしてサヨナラのランナーであるマギーには代走が送られる。ベンチメンバーで一番の俊足重信である。

バッターはキャプテンの坂本。一打サヨナラの場面でクラッチヒッターにかかる期待は大きかった。

そして坂本の打球は右中間へ。抜ければサヨナラ、一塁ランナーの重信は二塁へ走る。

しかし、この打球を中日のセンター大島が好捕。ランナーはそれぞれ自分の塁へと戻った。

 

二死となってバッターはこの日無安打の4番・阿部。サヨナラ慎ちゃんの一振りに誰もが期待していた。

しかし、ここで異変が起こる。ピッチャーの岩瀬が二塁へ送球。岩瀬は自分がなぜ投げるのかわかっていない様子だ。

ボールデッドが明けて阿部の打席。ここで岩瀬が再び二塁へ投げる。これで一塁走者重信のアウトが成立しゲームセット。岩瀬にとって前人未到の950試合目という偉業となったこの登板はアピールプレイというまさかの形で締めくくられた。

 

まさかのボーンヘッドの理由とは

坂本の打球で一気の本塁突入を狙う重信は二塁を越えてオーバーラン。しかし、大島の捕球を見てすぐさま一塁へ戻る。その際、二塁を踏まずに一塁へ戻ってしまった。それがこのプレーの真相であった。

中日の選手たちも審判もよく見ていたなと感心してしまうが、それ以上にこれは巨人にとって痛いミスだった。なぜこのミスが起こったか考えたい。

 

まず、坂本の打球を捕られるということ自体が重信にとって予想外だったのだろうと考えられる。

重信は一塁から本塁へ向かうことしか考えていなかったのだろう。2日前に自分の盗塁失敗で負けが決まったこともあり、足で取り返したい気持ちもあったはずだ。

それで重信は二塁を回った。ここで大島に打球を捕られてしまう。予想外の事態にパニックを起こし、頭が真っ白になった状態だろう。

2日前に失敗している。だから取り返したい気持ちもあるし、また失敗するわけにいかない思いもある。一塁に送球されてアウトになるわけにいかないから、重信はとにかく戻ることだけを考えた。そして「二塁を踏む」という当たり前のことが抜け落ちた。

 

結局このプレーは予想外の事態が起こって焦ったことによるミスと言える。

今回は大事な場面の精神的なプレッシャーという話をしているが、ここもそうだ。とにかく実績を作るしかない若手は目の前のプレーに精一杯だ。一塁に戻るという目的に精一杯で、ベースを踏むという当たり前すぎて意識しないプロセスが抜けてしまった。馬鹿らしくも感じられるが、大きな注目をされ、生活がかかる中でプレーするプレッシャーの中では起こり得ることなのだろう。

 

他にも考えれば、そもそも二塁を回ったのが行き過ぎではないかとも言える。

確かに右中間を破ったとしても一塁から本塁へ進むのは難しいし、重信としてはできるだけ進んでおきたいところだっただろう。しかし、二塁の手前で相手の守備を確認しても良かったのではないだろうか。ミスを取り返したい気持ちがより前へ進ませてしまったのかもしれない。

最も、このミスがなければ二塁をオーバーランしていたことなど気にしていなかっただろうし、結果論でしかないのだけれども。

 

ともかく、重信のミスにはプレッシャーが影響している。プロがプレッシャーなんかでミスするなと批判されても仕方ないけれども、プレッシャーで実力を発揮できずミスが起こりやすいのが「若手を使う」ということなのだ。若手を使えというファンは多いけれども、大半はこの視点が抜け落ちている。少なくとも、このプレーで重信を批判するようなファンは若手を使えと言うべきではないだろう。

これは重信という実績のない若手に、どんなにプレッシャーがかかっていても素晴らしい仕事をしてみせる鈴木尚広の仕事を期待したベンチのミスなのである。

 

巨人ベンチは若手起用法の見直しを

結局4日からの中日3連戦は重信の走塁によって負け越した。しかし、これは重信というより、起用したベンチの責任が大きいミスだ。そしてこの3連戦単体というより、開幕から重信に間違った役割を期待し続けてきたことが招いたミスなのである。

 

以前からこのブログで述べていたように、僕は今の重信に鈴木の役割を期待すべきではないと考えてきた。本来なら二軍で攻守に力を磨いていなければならない選手にプロの中でも特にプロフェッショナルな仕事を期待するから今回のようなミスが起きる。

巨人ベンチが重信に鈴木の幻影を重ねていることは確かだが、重信を鈴木にしたいなら最初から鈴木と同じ仕事をさせるよりも、レギュラーを目指す過程の中で様々な経験を積んだ方が良い。重信が登録抹消されていないあたりにはまだ重信を代走屋として起用する意思が感じられるが、近いうちにやめてもらいたい。

 

そして山本や石川の使い方を考えること。足以外は一軍レベルに達していない重信と違って、彼らには現段階でも一軍でやれる可能性がある。折を見て起用していくことが、中堅になってきた時の引き出しにも繋がるはずだ。

中井はそれが足りなかったから今みたいな無様な選手になってしまったし、その中井を可哀想だと思って贔屓起用しているなら、中井の悲劇を繰り返さないことを考えた方が良い。

 

山本や石川が中井二世と化し、重信が足が速いだけの藤村二世と化すのが最悪のシナリオだ。今の若手起用はそうなる危険をはらんでいる。一軍には新たに若手捕手の宇佐見が加わるようだが、彼も含めて巨人ベンチにはより良い若手起用を目指してもらいたい。

 

そしてそれと連動する中井の起用。大きな期待を背負っていた若手時代からの転落を考えれば彼への同情も仕方ないのかもしれないが、そこで非情になれるかが巨人というチームの未来を左右する。

シーズン途中からGMに就任した鹿取氏はトレードや育成選手の昇格において一定の結果を出してきているだけに、オフには中井の放出ということも検討してもらえればなと思う。

 

 

結局この3連戦は重信と中井に過度な期待をかけてきたベンチがチームを負け越しへ導いた。勝ち越しのかかる3戦目で田島を使わなかった中日との差とも言える。

実際にプレーしてミスをしたのは重信だが、彼を批判しても仕方ない。巨人ベンチがこの責任をどう受け止め、生かしているか。それが今シーズンの結果、そして未来の巨人軍に影響してくることだろう。