裏のまた裏話

ドラフト2017 巨人振り返り④ 岸田選手および捕手指名の妥当性

巨人は2位で大阪ガス岸田行倫捕手を指名。高校時代には岡本和真選手と共に日本代表に選ばれ、3番4番コンビを組んでいます。

 

巨人には日本代表でも活躍した小林誠司捕手がいますし、今季終盤には2年目の宇佐見慎吾捕手も台頭。さらに育成から支配下契約になった田中貴也捕手も高い評価を受けており、巨人は2位という順位で捕手を指名する必要があったのかというところが今年のドラフトにおけるポイントの1つであると思います。

今回はその岸田選手を指名したことの妥当性を考えます。

 

結論から言えば、僕は岸田選手の指名が妥当であったと思います。

 

巨人の捕手事情については上に書いた通りで、一見すると上位で指名しなければならないほど困っていないようには思います。

ただ、それでも巨人には捕手を指名する妥当性がありました。

 

まずレギュラーの小林選手について考えると、彼には代表での実績もありますし、守備は球界屈指。年齢も来季29歳とまだまだ先の長い活躍を見込めます。

一方で、その小林選手にもしものことがあった時にカバーしうる存在が十分とは言えません。

ベテランの實松選手はバックアップならともかく、スタメンでしばらく出るという期待ができる選手ではありません。実際に彼は昨日、若返りを図るチームの中で高齢のバックアップ要員という点が嫌われたか戦力外通告を受けています。

 

期待を受けている宇佐見選手や田中選手も「計算」ができる存在ではありません。宇佐見捕手は今季一軍である程度の結果を残したとはいえ、捕手にとって最も重要な守備には課題を抱えます。それに今季の打撃を続けられるという保証はまだありません。

昨年は阪神タイガースで就任したばかりの金本知憲監督が「超変革」を掲げ、髙山選手や北條選手、原口選手が素晴らしい活躍を見せました。しかし、今季はその活躍を続けることができませんでした。好成績を残した実力ある若手でも、継続することは簡単ではありません。

一軍で結果を残してもそうなのだから、一軍未出場の田中捕手にも過度な期待はできないのです。

 

他に支配下では河野選手と松崎選手という捕手がいますが、河野選手は相川選手や鬼屋敷選手の退団があったから残っているだけで何ら期待も計算もできないし、松崎選手もドラフト8位で入団し2年間一軍出場なしと厳しい状況。松崎選手はドラフト後に自由契約となりました。

 

以上のような状況を考えると、小林選手ら有力な捕手が数人いるとはいえ、万全というほどではないのです。

 

また、小林選手は守備こそ超一流ながら打撃で計算のできない選手です。2年連続で規定打席に到達も打率は2割がやっと。前述の通り捕手にとって最も重要なのは守備ですが、打てなくてもいいというわけではありません。

岸田選手の指名は打撃で苦しむ小林選手や、飛躍を目指す宇佐見選手、田中選手へさらなる奮起を期待するというメッセージ性のこもった指名でもあるように思います。

 

そして何より、今年若手捕手を獲得することが厳しい状況であることが岸田選手の2位指名を決定づけたと考えられます。

 

ドラフト時点で支配下登録されている捕手陣の来季の年齢を見ていくと、實松選手が38歳、小林選手が29歳、河野選手と松崎選手が27歳(松崎選手は早生まれだが河野選手と同学年)、田中選手が26歳、宇佐見選手が25歳。

チーム内では若い宇佐見選手や田中選手が20代中盤で一軍を狙える状況。二軍(あるいは三軍)ではさらなる若手を育てたいところです。

理想を言えば来季19歳の高校生捕手。しかし、今年はその高校生捕手が不作なのです。

村上宗隆捕手、中村奨成捕手の2人がドラフト1位指名されているのだから豊作とも言えますが、この2人を除くと高校生捕手は育成ドラフトで2人が指名されただけ。1位で村上選手も中村選手も獲れなかった以上、今年のドラフトでは将来的に小林選手らのライバルとなる若い捕手を指名することが難しい状況だったのです。

 

振り返りの①で書いたように、今年のドラフトのテーマは「現有戦力のライバル補強」。下位とか育成で指名できるような捕手ではライバルとなるのは難しいですし、高卒3年目の若くて有望な捕手という貴重な存在を指名したこの選択はベターな(この点でベストだったのは村上選手のくじを当てることでしょう)ものだったと思います。

 

加えて言えば岸田選手は岡本選手と同い年で、前述の通り一緒のチームでプレーした経験もあります。松井秀喜氏は現役時代に同学年の村田善則氏と仲が良かったそうですが、そういったチームメイトが増えることはプレーに挑む心境にもいい影響を及ぼし得るのではないかという期待があります。

 

何より岡本選手や岸田選手は僕と同世代。そのこともあり岸田選手の指名は個人的にも嬉しい指名でした。

 

 

また、捕手指名の妥当性はわかっていても、他に2位で指名すべき選手がいなかったかという意見もあるかもしれません。

 

投手か捕手以外のポジションで岸田選手以上に指名すべきだった選手がいなかったかということですが、まず投手指名という選択肢はないでしょう。

 

戦力になる投手が多くて困ることはあまりないですが、巨人の課題はどう見ても野手。昨年は本指名の7人中6人が投手という投手ドラフトをしていますしね。

1位で狙っていた野手を獲得することができず仕方なく投手を指名したことを考えれば、2位は何としても野手でいかなければなりません。

 

大学生の鍬原投手と違う高校生を指名するのも選択肢と言えなくないかもしれませんが、来季だけで再建を目指す今の巨人には正直、高校生を上位で獲ってのんびり育成する余裕はありません

また、2008年以降のドラフトを見てみると、巨人が高校生投手を本指名する時は必ず2人以上を同時に指名しています。チームの方針として同い年の高校生投手を競い合わせながら育てていこうということなのでしょう。

ということはここで高校生投手を指名したら高確率でもう1人を指名することになるわけで、そんな余裕はとてもありません。

もちろん高校生投手1人だけということができないわけではないですが、これまでの育成ノウハウをわざわざ崩すよりは野手補強となるでしょう。

 

次に野手で他の候補を見てみると、DeNA2位の神里和毅選手、楽天2位の岩見雅紀選手、西武2位の西川愛也選手、ソフトバンク3位の増田珠選手といった外野手が候補になるでしょう。

 

まず神里選手はなしです。彼自身は魅力的であっても、巨人に入れば重信選手と年齢もタイプもモロ被り。重信選手が必ずレギュラーになる逸材と言い切れるわけでもないですが、それでもドラフト2位という高評価で指名した以上、もう少し面倒を見る必要があります。

ここで神里選手を指名するのは重信選手の育成放棄を意味し、それは重信選手の出身校である名門・早稲田大学との関係を悪化させかねません。前回も述べた通りアマチュア球界との関係性も大切ですから、ここで神里選手の指名はできないのです。

 

岩見選手についてはドラフト後に岡崎スカウト部長が「村上を獲れていれば指名したかった」と言っている記事がありました。

巨人・岡崎スカウト部長が明かす“偏向”ドラフトの思惑 (東スポWeb) - Yahoo!ニュース

ただ、上で書いたようにここで岸田選手を逃せば若く有力な捕手を補強することが困難になるということで諦めざるをえなかったのでしょう。

 

もちろん岩見選手が素晴らしい選手なのは間違いないですが、それを前提とした上で敢えてネックとなる点を挙げてみると岸田選手の指名について妥当性が見えてくるのではないかと思います。

 

まず岩見選手は打撃こそ素晴らしいものを持ちますが、守備には課題を抱え、守れるのはレフトくらいのものでしょう。

巨人のプロスペクトである岡本選手が三塁を守り、吉川尚輝選手らが二塁の定位置を争うとすると、今年打線を牽引した助っ人のマギー選手は一塁を守ることになります。

 

その一方で、今年の打線には物足りなさが残ったためもう1人外国人野手を獲得する必要があるでしょう。狙うは長打を打てる左の大砲です。

一塁がマギー選手で埋まっているのならば、外国人を補強するのはレフトとなるのが濃厚です。しかし岩見選手を指名してしまうと、彼の出場機会を奪いかねないレフトの外国人を補強しにくくなる。

岩見選手には実力があるからこそ早くから一軍で使うことになるでしょうし、それゆえに補強の選択肢を狭めることになるため、指名が難しいのです。

 

仮に岩見選手が左打ちならば外国人選手を補強せずともレフトで石川選手などと競争させつつ使ってみようとなるのかもしれませんが、彼はチームの主力に多い右打ち。今のチームでレフトに置きたいのは左打ちの強打者ですから、岸田選手の希少性と照らし合わせると残念ながら縁がなかったと考えるしかないでしょう。

 

西川選手と増田選手の高校生2人については魅力的ですが、チームに高校生をのんびり育成する余裕がない中で若い捕手である岸田選手には及ばなかったということでしょう。

 

 

昨年は九鬼隆平捕手(現ソフトバンク)が3位、一昨年なら堀内謙伍捕手(現楽天)が4位と有力な高校生捕手が3位以降でも残っており、そのような状況なら岸田選手をスルーして岩見選手など外野手の指名もできたかもしれません。

 

しかし、前述のように今年は若い捕手が不作。他の年の基準で考えたら岸田選手の指名は勿体なく感じますが、実際は今年のドラフト戦線を冷静に見た上での冷静な判断であり、評価すべき指名だと思います。

来季いきなり小林選手のライバルは難しいかもしれませんが、宇佐見捕手や田中捕手のライバルとして、競争で再建を目指すチームを象徴する1人になってほしいところです。

 

 

今回はこのへんで。次回は3位以降の指名について書く予定です。